~ここから新しい世界に出会える~正林堂

渋川市の書店「正林堂」からお店の企画、本の紹介、地域の情報などを気ままに発信します。

ぐんまの里山てくてく歩き

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                             小暮 淳 著 『電車とバスで行く ぐんまの里山 てくてく歩き』 
                                             上毛新聞社 定価 本体1,200円+税
 
お店にならべると、ちょっと地味で他の本の間に埋没してしまいそうな本ですが、とても良い本です。
山歩きのガイドブックは、昔からたくさん出ており、群馬地元の山の本も多数でています。
ガイドブックとしての信頼度は、なによりも丁寧なコースガイドにこそありますが、山歩きの楽しみ方となると、それは人それぞれ違うものであり、万人受けするものは、なかなか難しいと思われがちです。
 
しかし、本来は、その人それぞれ固有の楽しみ方があることこそが、自然にふれて、その土地の歴史により深く接するためにも、とても大事なことであるはずです。
 
これまでの山歩き本には、なかなかそういったことに踏み込んだ本がありませんでした。
これだけ山歩きが中高年を中心に広く親しまれている時代ですから、そういった本は、決してないわけではありません。
でも、そうした山や自然のもつ多面的な面白さを表現することは、決してたやすいことではありません。
 
本書の小暮淳さんは、そうした山里の楽しみ方を全編にわたって私たちに紹介してくれています。
やっとこういった本を書いてくれる人があらわれて良かったと思ったら、小暮さんは、最近良く売れ続けている『ぐんまの源泉一軒宿』『群馬の小さな温泉』(ともに上毛新聞社刊)でもありました。
 
温泉と山と酒と地元の歴史と民俗。
これは、わたしたちが自然へ近づく手法の王道です。
ここにまた、山菜採りが加わるか、
釣りが加わるか
カメラが加わるか、
野鳥観察が加わるか、
どれもその人次第。
 
こうした分野は、群馬では釣り人にして名随筆家、佐藤垢石にはじまる立派な伝統があります。
小暮さんのこれからの活動が、とても楽しみです。
 
 
本書では、まず冒頭でわたしの実家近くの月夜野石尊山、八束脛洞窟遺跡の話が出てきたことで、拍手喝采です。
この八束脛洞窟は、多胡の碑に関連した羊太夫伝説につながる興味深い話があり、近い話題では、田原芳雄著『尾瀬判官 女菩薩愛し』(文芸社)で、大事な戦闘かけ引きの舞台になった場所でもあります。
 
このような山歩きへと誘うネタ、山歩きそのものを楽しくするネタ、そうした話題をふんだんに盛り込んだ山歩きガイドこそ、今の時代にもっとも求められている本と言えるのではないでしょうか。
 
わたし個人の思い出深い山、水沼の荒神山も出ていましたが、是非、こうした本を手にとり、身近な山の味わい深い散策に、より多くの人が一歩踏み出してもらいたいものです。