~ここから新しい世界に出会える~正林堂

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ヘタな人生論より「寅さん」のひと言

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吉村英夫著 河出書房新社 定価 本体640円+税

『ヘタな人生論よりイソップ物語
『ヘタな人生論より徒然草
『ヘタな人生論より良寛の生きざま』
『ヘタな人生論より中国の故事寓話』
『ヘタな人生論より葉隠
河出文庫、一連のシリーズの新刊。

このシリーズ、どれもなかなかいい動きしてます。

映画で聞きなれた数々の寅さんの名セリフ、
こうした活字で追うと、あらためてどれも実に見事な美文でなりたっていることがよくわかります。

これらは渥美清山田洋次による創作だけでなく、江戸、東京の下町の長い歴史の生活に根付いている言葉であるだけに、さらりと聞き流してしまいそうな言葉も、こうして活字でみることでその魅力をじっくり味わうことができます。


「様々な事思い出す桜かな―――昔の人は味のある事を言ったものでございます。
満開の桜を眺めておりますと私のような愚か者でも様々な事を思い出すのでございます。
思い起こせば十六の春、これが見納めになるかと悲しくて涙をこぼしながら歩いた江戸川の土手は、一面の桜吹雪でございました。
そうなんでございます、いまでは一本も残っておりませんが、私がガキの時分、江戸川堤は桜の名所だったのでございます。
毎年春になると、両親に連れられ、妹さくらの手をひいて、花見見物に出掛ける時の、あのワクワクするような楽しい気持ちを、今でもまざまざと思い出します。
―――申し遅れました、私の故郷と申しますのは、東京は葛飾柴又、江戸川のほとりでございます」

「川が流れております。岸辺の草花を洗いながら、絶ゆまず流れ続ける川を眺めますと、何やら私の心まで洗い流される気がしてまいります。そうして、いつしか思い起こされるのが、私の餓鬼の頃のことでございます。


            *************

寅  「どっか安い宿世話してくんないかい、今夜泊まるんだから」
警官 「ビジネスでよろしいな」
寅  「駄目だよ、俺ベッド駄目なの。小さい風呂、腰掛け便所、みんな駄目。狭くてもいいから、畳の部屋ないかな」
警官 「日本旅館ねえ」
寅  「ひとつだけ贅沢言わしてもらえれば、十時頃になると女中さんが、私パートだからこれで帰るよ―――ああいう所はやめて欲しい。
   俺は熱燗でキューッと一杯やらなきゃ眠れないんだ、肴は塩辛か何かありゃいいんだ。寝巻きの上に色っぽい羽織をひっかけた女中さんがお盆を片手に入って来て、お待ちどうさま。すまないねえ、こんな遅く。いいのよ、私宵っ張りだから、お一つどうぞ。お前もやらないかい。そうね、いっぱいいただいちゃおうかしら。
   ―――そんな感じで一泊千円のとこ、ねえかね、お巡りさん」
警官 「アハハハ、日本の現状を把握しとらんのとちゃうか、あんた」



(これは使えますね。しっかり覚えておきたい)