~ここから新しい世界に出会える~正林堂

渋川市の書店「正林堂」からお店の企画、本の紹介、地域の情報などを気ままに発信します。

『ダム撤去』

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売れなかった本のはなしです。

2004年に発売された本で
青山己織訳『ダム撤去』 岩波書店 2,800円+税
という本を長い間店においていたのですが、なかなか売れなかったので、
今年8月の棚卸のときに、必要な本でもあったので自分用で買ってしまいました。

民主党への政権交代が実現したことで、にわかに八ツ場ダムの中止論議が活発になってきました。

ある日、役人が突然訪れ、「この村はドボンですな」と告げられてから
すでに半世紀以上にわたって推進、反対の議論がたたかわされてきた問題です。

多くの地元住民は闘い疲れ、なんでもよいから早く平穏な暮らしがしたいと望んでいます。

経済効果、災害予測など、自分に都合の良い資料が飛び交い続けてきたなかで、
今、ようやくその実態があぶり出されようとしているかに見えますが、
マスコミの報道などを見る限り、まだまだ遠い道のりであることが想像されます。

そんな今こそ、この本を店頭においておくべきでした。
まだお取り寄せは可能な商品です。


日本よりもダム先進国であるアメリカは、寿命をむかえたダムや環境への影響があるダムなど
この本が刊行された時点で500を超えるダムが膨大なコストをかけて撤去されています。

それは、ダムが悪であるといった単純な議論から進められていることではありません。

開発にともなう環境への被害だけでなく、撤去にともなう被害も少なくないからです。
さらなるコスト負担も発生します。

大事なのは、ひとつの結論に至るプロセスの問題です。

八ツ場ダムのように突然「ドボンですな」と告げられてから、
成すすべもなく進められていってしまう計画にたいして私たちは、
今回のような政権交代でもおこらない限り、とても太刀打ちのできない現実と長らく思っていました。

もちろん、ダム本体工事の中止が実現したとしても、一度、破壊された住民の生活再建は、
代替地への移転では解決しない難しい問題をたくさん残しています。

これらの問題解決のプロセスのあり方に、このアメリカの『ダム撤去』の論述は大きな示唆を与えてくれているのです。

本書がめざすのは「ダム撤去あるいはダムの存続のいずれかをて提唱しているわけではなく、あくまでも客観的な視点から入手可能な限りの科学的な情報を提供することである。なぜなら、最高の意思決定はまずできる限り知ることから生まれるとの信念に基づいているからである」と序文で述べられています。

正しい論拠、間違いの論拠をそれぞれが出し合う争いではなく、
難しい問題の合意形成をどのようにはかっていくのか
民主主義のレベル、報道のレベル、住民自治のレベルそれぞれで、
これから私たちが身につけていかなければならない大きな課題です。