~ここから新しい世界に出会える~正林堂

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精神病院を捨てたイタリア 捨てない日本

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これも、どうしても紹介しておきたい本。

大熊一夫 著
『精神病院を捨てたイタリア 捨てない日本』
        岩波書店 2,520円

随分昔になりますが、この著者の『ルポ・精神病棟』を読んだときの衝撃はすごかった。
これを病院と呼んでよいのだろうかと思われるような実態が、見事に描かれていました。

その人の本であるから、読み応えあるに違いないと思いつつも、誰もがこのタイトルに疑問をいだくと思います。
ほんとうに精神病院を捨ててしまうなんて可能なのだろうかと。

実際にイタリアでも、反論は少なくないようで、その実態も本書ではふれられています。

しかし大事なポイントは、単に精神病棟を廃止したのではなく、それに代わる地域精神保健サービスを充実させたことにあります。
これは、精神障害者への偏見を低減する努力をともなってはじめて可能なことです。

日本の精神病院は、良く言えばどこも環境の良い郊外の山の中にありますが、これは別名隔離政策でもあります。

決して簡単なことではありませんが、投薬と隔離を中心とした「医療」からの脱却こそ、世界の精神医療に求められている課題であります。

この、ほんとうの「医療」の実現に挑んだこのイタリアの試みは、まだ試行錯誤の段階かもしれませんが、人間の医療の明日を考える大きな手がかりを私たちに与えてくれることは間違いないありません。

国から地域へ。

これも「弱い」先進国イタリアの強さの秘密。

ことの実態が見えてくると、精神医療だけの問題ではないこともよくわかります。