~ここから新しい世界に出会える~正林堂

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吉村昭『三陸海岸大津波』

復興に役立てたい本シリーズ ①
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吉村昭三陸海岸津波』中公文庫 本体514円+税
            文春文庫 本体438円+税 (ただ今重版待ちです)
  原題『海の壁 ―三陸沿岸大津波中央公論社 昭和45年刊

明治29年昭和8年に続いて昭和35年チリ地震津波と三度にわたる大津波を経験した三陸地方。
それは、三陸リアス式海岸という特有の地形がもたらす災害でったともいえます。

海岸線がギザギザに入り組んだ地形は、河口付近の僅かな平野部に集落が密集し、またその河口に向かったV字に先細っていく地形が、津波の威力が進むにしたがって倍加していき、その破壊力は凄まじいものにしました。
私たちは津波というと、大きな高い波がザブンと襲ってくるような形を想像しがちですが、、実際の津波は、上昇した海面がそのまま長時間にわたって押し寄せてくるものであり、決してひとつふたつのザブンという高波をかぶってすむようなものではありません。

地元の人々はその教訓を活かし伝えるべく様々な努力をしてきました。

にもかかわらず、このたびの東北地方を襲った大地震とその後の津波は、これまでの努力をすべて吹き飛ばしてしまうほどの大惨事となってしまいました。

教訓は役にたたなかったのでしょうか。

死者数
 明治29年の大津波    26,360名
 昭和8年の大津波     2,995名
 昭和35年チリ地震津波   105名
流出家屋
 明治29年の大津波    9,879戸
 昭和8年の大津波     4,885戸

この数字をみる限り、要因はひとつではありませんが、それまでの教訓を生かした防災設備や意識の向上が被害の減少要因になっていることはうかがえます。

この度の想像を超えた被害の大きさには誰もが絶望を感じてしまいますが、訓練を重ねたおかげで助かった人々、「これより下に家を建ててはならぬ」との先人の教えを守って生き延びることができた村など、それまでの努力があったからこそ救われた命も決して少なくなかったことを忘れてはなりません。

過去の三陸地方を襲った津波とは、どのようなものであったのか。
歴史から私たちはなにを学んだのか。
時とともに薄れる防災意識とどのように闘ってきたのか。

吉村昭が本書を執筆したときは、まだ明治8年津波を経験した人の証言も僅かながらも得ることができました。
漁師たちが目撃した様々な津波の前兆の証言も見落とせません。

本書は、もっとも簡潔にその概要を知ることができる貴重な1冊です。