~ここから新しい世界に出会える~正林堂

渋川市の書店「正林堂」からお店の企画、本の紹介、地域の情報などを気ままに発信します。

妻をめとらば才たけて♪

ある年配のお客さんから土井晩翠の詩集は手に入らないかとの注文を受けました。
本来、定番の岩波文庫の注文というところでしょうが、岩波文庫版は品切れでした。
検索したところ、新学社の近代浪漫派文庫というシリーズで、上田敏といっしょに1冊にまとまっているものがあり、それを取り寄せました。

入荷後、お客さんに渡すとき、
ふと、「妻をめとらば才たけて~」の歌は土井晩翠でしたっけ?
などと思いつくままにバカな質問をしてしまった。
すると、お客さんも考え込んで
島崎藤村じゃなかったか?などと自信なげに応えてくれた。

私は東京にいたころ勤めていた職場の付属図書館のひとが飲むとよくこの歌を歌っており、
なんとなく土井晩翠だったような記憶が残っていた。

危うく、強い口調で土井晩翠に間違いないですよ、などと言いそうになったが、
検索かけてみたら二人ともハズレ!


与謝野鉄幹でした。

まったく、毎度のことながらいい加減なもんで
レジにいた皆であきれていました。



1 妻をめとらば 才たけて
  みめ美わしく 情けあり
  友を選ばば 書を読みて
  六分の侠気 四分の熱

2 我にダンテの 奇才なく
  バイロン、ハイネの 熱なきも
  石を抱いて 世にうたう
  芭蕉のさびを よろこばじ

3 わが歌声の 高ければ
  酒に狂うと 人のいう
  われに過ぎたる のぞみをば
  君ならではと 誰か知る

4 げに青春の燃えわかぬ
  もつれてとけぬ 悩みかな
  君が無言の ほほえみは
  見果てぬ夢の 名残かな

5 ああ青春の いまがゆく
  暮るるに早き 春の日の
  宴のもりの はなむしろ
  足音もなき ときの舞

作詞 与謝野鉄幹 作曲者不詳


昔の学生が、書生気質にあこがれて
オレは何番まで歌えるなどと自慢してよく口にした詩ですが、
当世の書生気質には、まったく縁のない世界。

この詩、まだまだ先がある。
学生時代、先輩は全部暗誦してた。

「書生気質」確かに死語だけど、
この詩の世界は永遠に受け継がれたい。


6. 見よ西北にバルカンの  
 それにも似たる国のさま  
 あやうからずや雲裂けて  
 天火ひとたび降らんとき

7. 妻子忘れて家を捨て 
 義のため恥を忍ぶとや  
 遠くのがれて腕を摩(ま)す  
 ガリバルディや今いかに

8. 玉をかざれる大官は 
 みな北道(ほくどう)の訛音(なまり)あり  
 慷慨(こうがい)よく飲む三南(さんなん)の  
 健児は散じて影もなし

9. 四度(しど)玄海の波を越え 
 韓(から)の都に来てみれば 
 秋の日かなし王城(おうじょう)や  
 昔に変る雲の色

10. あゝわれ如何にふところの 
 剣は鳴りをひそむとも 
 咽(むせ)ぶ涙を手に受けて 
 かなしき歌の無からめや

11. わが歌声の高ければ 
 酒に狂うと人のいう 
 われに過ぎたるのぞみをば 
 君ならではた誰か知る

12. あやまらずやは真ごころを 
 君が詩いたくあらわなる  
 無念なるかな燃ゆる血の  
 価(あたい)少なき末(すえ)の世や

13. おのずからなる天地(あめつち)を  
 恋うるなさけは洩(も)らすとも  
 人をののしり世をいかる 
 はげしき歌をひめよかし

14. 口をひらけば嫉(ねた)みあり 
 筆を握れば譏(そし)りあり  
 友を諌(いさ)めに泣かせても  
 猶(なお)ゆくべきや絞首台

15. おなじ憂(うれ)いの世に住めば  
 千里のそらも一つ家  
 己(おの)が袂(たもと)というなかれ 
 やがて二人の涙ぞや

16. はるばる寄せしますらおの  
 うれしき文(ふみ)を袖にして  
 きょう北漢(ほくかん)の山のうえ  
 駒立て見る日出(い)づる方