~ここから新しい世界に出会える~正林堂

渋川市の書店「正林堂」からお店の企画、本の紹介、地域の情報などを気ままに発信します。

伯母の本作り

伯母の本作り
年内の完成を目指しているのですが、間に合わせられるだろうか?


同じような手作りの本を作っていて、
その方法論を確立しようとしている渋川市内の佐々木金義さんは、
手作り本の理念を次のようにまとめています。

本作りの理念(抜粋)
1、自分で作るから伝わる
2、お金をかけないから本心が見える
3、普通の人間が作るから共感を与えられる
4、自然体で作るから後世に感銘を与えられる
5、残し遺せる安心感は幸せへのプロローグ
6、頭脳活性は健康へのバロメータ
7、口は災い、書くは幸い
8、書くは「開拓」「開発」「発見」
9、自己アピールは仲間作り
10、羞恥心より向上心




 わたしが、ちえおばさんの文をはじめてみたとき、その素直な文章の表現力に驚いたものですが、同時にノートや広告用紙の裏に書き連ねられたたくさんの文を見たとき、それらのほとんどは、私にはまだ宝の山ともゴミの山とも判断のつかないものでした。

 ところが、おじさんがそのなかのいくつかをワープロで清書してくれて、そのデータを持ち帰って文章を少しずつ整えていくうちに、雑文集にしか見えなかった数々の切れはしが、次第にどれも立派な作品としても通用する珠玉の集まりとして見えてくるようになりました。

 もちろん、それは決して本にしたからといって一般の人たちに売れるようなものだという意味ではありません。

 でも、ほとんどの人が自費出版などで出す経歴や体験と連ねただけの自伝的な本よりも、しっかりとその時々の自分と向き合っているおばさんの姿が見えるものであり、
これこそ、その人のほんとうの生きざまを伝えるメッセージとして、多くの人に伝える価値があるものと確信しました。

 本(冊子)というものは、不特定の人に見てもらうことよりも、
この言葉は、
この文章は、
あの人に伝えたい、
うちの子どもたちに伝えたい、
孫たちにに伝えたい、
といったそれを見せる相手を具体的に想定してこそ、価値は増すものだと思います。
 しかし、この特定の世界を表現するということは、同時に他の人には本来見て欲しくないこと(伯父の浮気事件など)まで立ち入ることも意味します。
 この踏み込んだ表現をおじさんが見事に理解、バックアップしてくれたことでこの文集の価値が増して出来上がったともいえます。
 このおじさんの行為は、ただ「寛大」だからというものではなく、おじさん自身がこれを伝える価値や意義を感じてくれているから出来たことと思います。

 たまに遅い時間に月夜野の家にお邪魔してこの伯父伯母夫婦の話を聞きながら、原稿の打ち合わせをすることは、私にとってはとても誇りに思える作業でもありました。
 しばしば、同じ話を何度も聞かされる年寄り特有の会話に対する我慢の時間もありましたが、このメッセージを自分がどれだけ顔の浮かぶひとりひとりに伝えられるかを考えると、この関係をもてたことが自分にとってもとても大事な時間であることを痛感させられるのです。
 
 私も決して、本を作ること、増してや他人の文章を直すことなどできるような資格はないものですが、ひとりの親戚筋のものが、ビジネスベースではなく、こうしたご縁でこのような価値ある仕事が出来ることがうれしい。

 願わくば、このおばさんの文章を読んで、ひとりでも多くのひとが、「世間」を相手にすることではなく、その時々の自分と向き合うことがどれだけ価値のあることか、考えるきっかけになっていただければ幸いだと思っています。