~ここから新しい世界に出会える~正林堂

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これは読む前に書く、『甘粕正彦 乱心の廣野』

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多くの謎に包まれ、満州国の影の支配者として不気味な印象を与え、
それでいて時に紳士的に振る舞い、あるいは文化人としての評判もあわせもつ甘粕大尉。

私にとって角田房子の『甘粕大尉』以来、戦時中のキーパーソンのなかでも、いつかその全貌知りたい興味をいだかせる特別な存在でした。
その謎めいた姿は、映画「ラストエンペラー」の坂本龍一の、適役というよりは、配役の妙が冴えわたった稀な例でも一層関心が深まることになった。

その人物に、『東電OL殺人事件』や『誰が「本」を殺すのか』
さらに「かみつけの国 本のテーマ館」のなかでは、『大往生の島』で著者の特別のページを作っている大好きな作家佐野眞一氏が取材をした本ということなので、ここで取り上げないわけにはいかない。

そんなふうに気にかけながら、店でボリュームのある文芸書のわりには好調な出足を見ていた矢先。
よく近現代史の面白い話を教えてくれる高校の先生が、この甘粕正彦の奥さんは、なんと富岡東高校の先生をされていた方であると教えてくれました。
佐野眞一氏もその取材で富岡市には来ているらしい。
これは是非とも「ウィ○ T書店T店」の店長さんに教えてあげなければ。

甘粕大尉に関して興味がある視点はたくさんあるが、
その第一は、なんといっても甘粕事件として知られるアナキスト大杉栄伊藤野枝とその甥・橘宗一(7歳)の3名を憲兵隊本部に強制連行し、虐殺した事件。
禁錮10年の判決受ける。
 このことに対して甘粕は後の満州時代に「あの事件は俺がやったということになっている」と言ってニヤッと笑ったという証言がある。
 どうも本書で佐野氏は甘粕の無実を説いてるらしい。
 いったいどんな証言や資料が新たに出されているのだろうか。

 もうひとつの関心は、満州時代に甘粕が様々な謀略を企てる際に、通常では信じがたい豊富な資金を使えた理由。
いったいどこからそんな金が出ていたのか。
その多くは、「満映から出ていた」との根岸寛一の証言があるが、ほんとうに満映だけで大金が調達できたのだろうか。佐野氏の検証の楽しみなところでもある。

今。読まなければならない本がたまっているが、どうも本書が割り込むことになりそうだ。

これを書くために検索していて改めて知ったのですが、
銀行家の甘粕二郎と甘粕三郎陸軍大佐は弟。甘粕重太郎陸軍中将は叔父。
マルクス経済学者見田石介は父方の従兄弟で、石介の子が社会学者・見田宗介
孫が漫画家・見田竜介だそうです

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