~ここから新しい世界に出会える~正林堂

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国をあてにしない地方文化都市、ボローニャ

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井上ひさしボローニャ紀行』
文芸春秋 定価 本体1,190円+税


バイロイトという小さな町の伝統となったワーグナーの楽劇を毎晩見ていると、山ひとつ隔てたドイツとイタリアでかくも文化の違うものかと痛感させられます。

ヨーロッパの国々でも、このふたつの国を並べて論じるのは無理があるかもしれませんが、私には、個性あふれる地方都市の文化が栄えている非中央主権国家、反中央集権国家の代表格として、どうしてもこの二つの国はならべて考えたくなってしまうのです。

その思いを改めて強く感じさせることになったのは、井上ひさしの「ボローニャ紀行」を読んでからです。
本書の刊行は今年の3月。
本のタイトル、装丁からただの紀行エッセイとみられがちですが、読んでみると実に内容の濃い1冊でることがわかります。

現に8月を過ぎてから、ネット書店の上位にランキングされだしてきていることから、誤解でスタートしていながらも、その実力でじわりじわりとランクアップしてきた貴重な本であると想像されます。

私が、ボローニャなどの地方都市に代表されるイタリア文化の魅力を最初に知ったのは、今からもう20年以上前になります。
かつて東京で国際文化交流団体の仕事をしていたときに、

佐藤一子著『イタリア文化運動通信』合同出版
松田博著『ボローニャ「人民の家」からの報告』合同出版

などを読んで以来です。

あれから20年以上経た今日まで、イタリアの地方都市文化、地方自治文化はグローバル化の波に流されることなく続いていることを知り、とてもうれしくなりました。

(といっても、ボローニャは最近になって市長が代わってしまい、市街地への車の乗り入れがされるよになってしまったりかなりの後退が起きているようですが。)

それでも、ボローニャには未だに世界に誇れる地方都市としての文化がたくさんあります。
イタリアを詳しくみてみると、決してボローニャに限ったことでもないことも多いのですが、その実像は先進資本主義諸国のなかで近代化の遅れた国としてではなく、町工場や手工業の職人文化を守り抜く、中央政府をあてにしない国としての姿がそこには見えてくるのです。

お隣にフランスという、パリへの一極集中の代表国家、農業国でありながら、やたら意地で世界一をつくりたがる国をひかえ、
同時に、同じような職人(マイスター)文化と分散都市文化を保ちながらも近代工業化に成功したドイツなどを比べてみると実に面白い。

よくイタリアは、長靴(ブーツ)に見える国の形から女性の国、ファッションの国として語られることも多いが、井上ひさしは本書の冒頭で、そんなことはない実像を教えてくれる。

まずその国のかたち。
それは決して女性のブーツではない。

長靴のつま先には、サッカーボールのようにシチリア島があり、
今、まさに蹴っ飛ばしそうとしているかのようだ。
まさにそれはサッカーの国であることをあらわす。男の国である。
足の付け根にはベニスもある。

またそのシチリア島はマフィアの巣窟になっているので、今にもアフリカの方に蹴っ飛ばしたそうな気持ちも現れている。

そんな説明から、井上ひさしらしい語り口で、ボローニャという都市が今でも「ボローニャ方式」とよばれるすばらしい地域づくりのお手本を紹介してくれています。
見かけと違ってあまりにも内容が濃いので、これから数回にわたって紹介してみたいと思います。