~ここから新しい世界に出会える~正林堂

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沖縄を通じて日本を読み解く力

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佐野眞一『沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史』
集英社インターナショナル 定価 本来1,900円+税


佐野眞一の新刊というだけでも要チェックの本ですが、沖縄は地元の高校が毎年修学旅行で行くところなので、これは注目せずにはいられない大事な本でした。
いや、そのこと以上に、今の退廃したメディアに対する痛烈な批判の書として特筆されることのほうを強調すべきかもしれません。

もともと佐野眞一は、その幅広い取材のなかでも
満州という時間軸と、沖縄という空間軸」を特別な位置づけをして
長い時間をかけて追い続けています。
満州がらみでは、ここでも以前に『甘粕正彦 乱心の廣野』をとりあげました。)

沖縄というと、どうしても太平洋戦争のとき日本で唯一地上戦の行われた悲劇で彩られた島であることや、米軍基地問題や本土からの差別などの視点が中心になってしまいます。

それは当然のことで、その明白な事実すらゆがめられる恐れが現存し、忘れ去られることをを防ぎ、まもることこそが大事で、今はそれに必至なのかもしれません。

ところが、それらの印象や色眼鏡だけで沖縄をみてしまうことが、どれだけ今の沖縄の人びとの生きた暮らしの実態から、豊かなもの、深いものを見る目を遠ざけることになっているか、
佐野眞一はそのようなことに警鐘を鳴らし続けています。

冒頭の節のタイトルは
「お約束」の島から「物語」の島へ
となっています。

「私はこの取材で、これまでまったく耳にしなかった話をおびただしく聞いた。とても信じてもらえそうにない光景を各所で目撃した。本書ではそれをいわばゴーヤチャンプルー風のごった煮状態のまま報告していきたい。」  (本文より)




とりわけ、テレビや新聞の取材報道は、はじめから結論づけがされたところにあてはまる言葉だけをつなぎ合わせたようなものが溢れかえっています。

失礼ながら、期待を裏切り続ける朝○新聞などには、とくにその傾向が顕著に感じられます。

メディアの退廃ともいわれますが、視聴率や広告収入に頼らざるをえない性格から、
常に「マス」を対象にせざるえをえないメディア。
そこに、より早く、より安く情報が提供されるインターネットが加わり、
さらにメディアは、情報を吟味加工する余裕はなくなり、即効性のある表層の情報にシフトせざるをえなかったかもしれません。

勝間和代さんなどもよく強調してくれている点ですが、こうした状況に、本来は「本」こそがしっかりと応えてくれる媒体となりうるのです。

ところが残念ながら本の市場の縮小の流れのもとでは、そうした本ならではの使命を発揮することには向かわず、ベストセラー新書やケータイ小説のように、時間をかけた加工を経ないネット情報に近づく方向にばかり、この間、本は「進化」してきてしまいました。

佐野眞一の仕事をみていると、ほんとうの情報はどこにあるのか、情報を見る目、事実を知ることとはどういうことなのか、
テレビやネットでは知ることのできない世界をまざまざと私たちに見せ付けてくれます。

本書は、奇しくも近く休刊になる「PLAYBOY」に長期連載されたもの。


東電OL殺人事件のその後のこと、福知山線事故のことなど、日ごろ流れているテレビ、新聞の報道になれてしまっている者には、あっと驚かせるような情報が、週刊誌ネタなどとはまったく違う次元の説得力をもって佐野眞一は私たちに伝え続けているのです。

こうした内容は、要はなんなのですか、ではなく
こうした本を読むことでこそ、
ようやくその核心にせまることが可能な情報なのです。

本書の具体的な内容にふれずに、前書きだけが長くなってしまったので、
目次だけをここに転載しておきます。


機‥傾帖κ瞳魁Σ縄県警
   「お約束」の島から「物語」の島へ
   歴史に翻弄された沖縄県
   スパイ蠢く島
   米軍現金輸送車強盗事件
   エリート議員の失踪と怪死
供_縄アンダーグラウンド
   花街・映画・沖縄空手
   沖縄ヤクザのルーツ「戦果アギヤー」
   山口組の影
   沖縄旭琉会VS三代目旭琉会
   「ユートピア」組長狙撃事件
   あるヒットマンの独白
   密貿易の島――与那国
   空白の琉球弧――奄美群島
   伝説の義賊・清真島
掘_縄の怪人・猛女・パワーエリート
   弾圧・拷問・右翼テロ
   第三の新聞・沖縄時報顛末記
   スーパースター・瀬長亀次郎
   沖縄を通り過ぎた男たち
   ゴッドファーザー・國場幸太郎
   オリオンビール創業者・具志堅宗精
   沖縄のパワーエリート「金門クラブ」
   川平家四代の物語
   ウチナー金融裏表事情
   「沖縄の帝王」軍用地主
   カプセルホテル怪死事件
   沖縄知事選コンフィデンシャル
   女たちの沖縄
検〕戮詢圧紂歌う沖縄
   島唄復活と大阪ウチナンチュー
   沖縄ミュージックは日本に届くか
   最果て芸能プロモーター伝説
   沖縄最高のエンターテイナーは誰か
后〆F釮硫縄・明日の沖縄
   少女暴行事件の傷跡
   美(ちゆ)ら島の陰に