~ここから新しい世界に出会える~正林堂

渋川市の書店「正林堂」からお店の企画、本の紹介、地域の情報などを気ままに発信します。

茂木正男さんを悼む

高崎映画祭事務局代表で、シネマティークたかさき総支配人の茂木(もてき)正男さんが15日、病気のため亡くなられたことを新聞記事で知りました。

群馬の文化を語るうえで、この方ほど、力強い実践的足跡を残してくれた人もいないのではないだろうかと思えるほど印象の強い方でした。61歳という若さで逝ってしまったことが惜しまれる。

わたしがはじめて茂木さんにお会いしたのは、今からもう20年くらい前でしょうか、高崎のある書店に勤めていたときに、ひょっこりお店に来られて、立ち上げられたばかりの高崎映画祭の企画を熱く語られていったの覚えています。
第一印象からして、ただの地域活動家のレベルではないエネルギッシュなオーラのようなものを感じました。

やがて高崎映画祭も規模が徐々に拡大して定着して今に至りますが、いかなる活動でもたとえ数人の観客であってもあきらめることなく、自らの価値を安売りすることもなく、信じるところのものを訴え続けていくことがいかに大事であるかということを、茂木さんの姿からわたしは教えられました。

高崎映画祭で上映される作品リスト、シネマティークたかさきの上映リストを見るにつけて、映画ならばなんでも良いではなく、興行収入につながるものであれば良いということでもなく、しっかりとした審美眼で選び抜かれたものを持続的に上映し続けてきたその努力のほどには、つくづく頭が下がります。

わたしたちのまわりの映画環境はここ数年で劇的に変化しました。
巨大ショッピングセンターが相次いでできたことにより、渋川あたりで夜、8時まで店で仕事をしているものでも、気楽にレイトショーで話題の映画は観に行くことができるようになりました。

そのようななかで、シネマティークたかさきの上映作品は、従来は東京まで出なければ観ることができないような作品を一貫して取り上げてくれており、どれだけ多くの新しい発見と感動を私たちに与えてくれたことか、それははかりしれないものがあります。

でも、私が観に行く作品は、時間の問題もあるでしょうが、いつも人はまばらで、これは巨大シネコンですら同じなのですが、良い作品の興行を支えることの困難は想像に難くありません。

どんな分野の活動でも、良いものなら必ず売れるとか、これならたやすくやっていけると言えるようなものはありません。

それに対して、ほんとうにその価値を知る人のみが、一人でも多くの人にこれを伝えたいという誰にも負けない情熱のもとに、
一歩一歩の努力を積み重ねて、周囲のいかなる圧力にも負けずに確かなものを少しずつ伝えていけるものだということを、茂木さんは私たちに示してくれました。

そんな茂木さんのことを思うにつけ、もう少し茂木さんの姿勢にならって、自分の価値観を信じてより良い本を仕入れなければと反省させられます。
早速今日、売れる可能性の低いいくつかの本を発注してみましたが、こんなこと茂木さんのやってきたことに比べれば努力のうちには入らない。

お元気なうちにゆっくりお話してみたかったものですが、その姿はわたしの目にしっかりと焼き付いています。

心からご冥福をお祈りします。