~ここから新しい世界に出会える~正林堂

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加藤周一と『日本文学史序説』

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大きな存在がまたひとり、亡くなられました。
井上ひさしさんは、「北極星が落ちた」とまで表現してました。

世の中がいかに変わろうとも、いつもわたしたちのいる場所を不動の位置から方向を指し示してくれた貴重な存在でした。

思えば30年も昔、私が大学受験のときも、加藤周一『芸術論集』岩波書店(1967)は、評論集でありながらも芸術学科受験に大きな指針を与えてくた本でした。

個人全集は、あまり買わない私ですが、和辻哲郎柳田國男宮沢賢治ニーチェドストエフスキーなどとともにいつかは買おうと思っていた人(著作集ですが)のひとりでもあります。

『芸術論集』の次は、『三題噺』や『中国往還』『羊の歌』などから読んでいった思い出がありますが、
なんといっても『日本文学史序説』ほど私にとって決定的な出会いはありませんでした。

なんでこれが「序説」なの?と疑問に思いつつ、その一行一行、息の抜けない叙述の密度の深さに衝撃を受けたものです。

これらの文体から私の受ける加藤周一の印象は、小説の場合も含めて、三島由紀夫川端康成などのやわらかく美しい文章とは最も対極に位置する、まるで2Hか3Hあたりの堅い鉛筆で、緻密に書き上げたもののように感じられました。

個々の言葉と文章を、緻密に組み上げて巨大な構造物を築き上げる力、その細部、細部の深い洞察に支えられた巨大な建築のようなものを感じさせてくれます。

それは、一行で思想を表現できた人といえるかもしれません。

集中して読まないと、つい大事な表現を見過ごしてしまいかねないので、通読するよりは、
万葉集について考えるとき、方丈記について考えるとき
あるいは近松忠臣蔵が気になったときなど
その都度、本書の該当部分をあたってみることが多い。

今のお店が改装する前、テーマ館として使っていたコーナーに『日本文学史序説』上・下 ちくま学芸文庫を「店長のおすすめ」としてしばらくおいていたことがありました。
そのときは、高校生かと思えるほどかなり若いお客さんが買ってくれたのを記憶しています。

早速、『日本文学史序説』を発注したものの、本日、追加を出そうとしたら、追悼フェアで在庫は出払ってしまっているようでした。
最初の注文分だけでも入荷してくれればありがたいのですが・・・

どの本もどの文章も、多くの人に見てもらいたいものばかりですが、
『日本文学史序説』こそ、長く多くの人に読んでもらいたい1冊です。

古本も、ネットでちょっとかき集めてみようかな。