~ここから新しい世界に出会える~正林堂

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とても大事な本が復刊。モースの『贈与論』

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 二十世紀の古典中の古典ともいわれるマルセル・モースの『贈与論』が、ちくま学芸文庫から復刊されました。
 復刊といっても、勁草書房から出ている『贈与論[新装版]』も、まだ3,800円+税で入手できます。

 私は、文庫化される情報を知ったときに、「あれ?もう注文できるではないか」と間違って勁草書房の本を手配してしまいました。
でも、大事な本であるからハードカバーでも欲しいと思い、こちらも買っておきました。
 
 なんと1962年に同社から初の訳本が出た本。
 2008年に新装版が出たというから、この手の本では異例のロングセラー。
 原著は1925年の刊行。

 ちくま学芸文庫勁草書房版を比べると、やはりちくま学芸文庫の方が圧倒的に活字から訳文から読みやすくなっています。
 実際、学術面だけでなく、日本語表現も1962年ころと現代を比べたら、相当変化してきているから、古典と言われる文献は、どうしても新訳で見直されることが必要なのだと感じます。

 モースはデュルケーム理論の継承者でると自ら称していたようですが、社会学的、文化人類学的方法論などにおいてレヴィ=ストロースバタイユをはじめ、日本では中沢新一など多くの人に影響を与えています。

 ところが、「贈与」というテーマをどのように取り上げているのかということについては、人それぞれいろいろな見方があり、一筋縄ではない。
 でも、にもかかわらず、多くの人が本書を手がかりとして多くの視点を得ていることが、本書が古典としての力をもつ所以であると思います。

 最近では、環境問題への関心の高まりなどから、人間社会が大自然からの贈与のもとになりたっているということについては、あまり異論はもたれなくなってきています。

 ところが人間社会における贈与の関係となると、未開社会であればともかく、私たちの一般的な感覚からすると、社会関係のなかではあくまでも特殊な関係にすぎないと思われがちです。
 しかし、モースが本書で紹介している未開社会に見られる個々の特殊な事例を見ると、文化人類学的な特殊な事例が、今日の私たちの現代の社会生活、経済活動に実にたくさんの示唆を与えてくれるのです。

 わたしは、現代社会においても、人と人との関係は、親から子供への贈与をはじめ、「贈与」こそが人間関係の基本であるとの極端な考えをしているからなのかもしれませんが、本書は、貨幣経済への問い返しが起きているこの時代こそ、再評価されるべき、とても大事な本であると思うのです。

このブログでも
無償の労働、「贈与」と「お金」
http://blogs.yahoo.co.jp/hosinopp/folder/922088.html
という括りで書いています。

 本書が少しでも売れてくれることはもちろんですが、社会における「贈与」論議が少しでもこれを機会に巻き起こることを願わずにはいられません。