~ここから新しい世界に出会える~正林堂

渋川市の書店「正林堂」からお店の企画、本の紹介、地域の情報などを気ままに発信します。

無料で広がるビジネス

クリス・アンダーソン著『FREE』 NHK出版

どこかで聞いた名前だと思ったら「ロングテール」という言葉の生みの親で、私自身もブログで以前書いていました。

11月26日に発売の本ですが、本の発売に先行してネットで内容を公開するというもの。
(残念ながら公開期間は終了しました)

http://www.freemium.jp/

この「フリーミアム」という言葉は、あるベンチャーキャピタリストの造語だそうですが、またしてもクリス・アンダーソンによって広まり定着するのでしょうか。

これは、95%の読者に無料の情報を配ることを、5%の有料の読者が支えるしくみのことです。

今でも無料サンプルを配ることで、顧客を獲得するビジネスは存在しますが、デジタル製品の領域では、そうした実費コストをかけることもなく顧客に近づくことができるのです。

内容を公開してしまったならば、もう買う必要はなくなってしまうのではないかと思いますが、実際に大半の人には買ってもらえなくてもかまわない。
ただ5%の人だけ買ってもらえれば採算はとれるという。

それは、自分の欲しい情報があるかどうかという顧客の信頼を得られないまま、高額な広告宣伝費をかけるよりも、確実にその情報を欲しているターゲットに届く広報・告知を行い、その情報が無料という低いハードルのおかげでより広い人々に周知でき、分母が拡大するので5%の有料客でも採算がとれるというもの。

web技術が進歩した時代ならではの発想です。

これは、様々な領域で既に始まっているビジネスモデルで、

メルマガ + ブログ + ホームページ + 出版 + 講演 + 契約

というスタイルの「情報ビジネス」として、もうかなり完成されたひとつの領域をなしています。

もちろん、これからすべてがそうなるわけではありませんが、決してこれが特殊なスタイルでなくなることは間違いないと思います。


私がしばしば、「情報は本来は社会の公共財」なので本来は無料、それを独占・秘匿する場合にのみお金が取れるということを書いていますが、無料のレベルから有料のレベルをまたいだ過渡期のビジネスとしてみることができます。

また本書のなかには、無料経済のゆくえや、非貨幣経済の社会では何が支配するのか、といった興味深いテーマに満ちた記述があります。


発売が楽しみです。


【追記】
これからこうした無料の情報が増えてくると、これまでの出版文化に比べて質の低下が起こるのではないかとの疑問が寄せられました。

確かにその危惧はないわけではありません。
しかし、現在の紙情報の出版文化の世界でも、二番煎じの情報に溢れた質の低下は十分といってもよいほど起きています。
それに対してこうしたネットに公開される情報というものは、読者により多くの情報に接する機会を与え、適切な判断を下す材料を増やすことになっているので、必ずしもそれが質の低下の条件になるわけではないと思います。

いかなる環境のもとでも、質の良いものを流通させるには、新しい努力の積み重ねをしていかなければならないのではないでしょうか。

                私の個人ブログ「かみつけ岩坊の雑記帖」より転載