~ここから新しい世界に出会える~正林堂

渋川市の書店「正林堂」からお店の企画、本の紹介、地域の情報などを気ままに発信します。

『エンデの遺言』の文庫化

すべてこの世のものは、
自然であれ、人間がつくったものであれ、
時間とともに老化して、
価値は下がっていきます。
 
なのに「お金」だけが、
なぜ、時間がたっても価値が減らず、
そればかりか「利子」というオマケまでついて、
価値が増えていくのでしょうか。
 
 
この一見あたりまえと思われていることに、エンデは生涯を通じて疑問をなげかけてきました。
有名な『モモ』も、そうしたエンデの問いかけのひとつです。
 
エンデは、あまり知られていないひとりの経済学者、シルビオ・ゲゼルの理論に注目しました。
 
それは、もし「お金」も他の自然や人間の作ったものと同じように、
時間とともに価値が減少していくとしたら?
という考えです。
 
時間とともに価値が減少していく「お金」
 
それは、長く持っていると損をするので、
人はすぐ使うようになります。
(少ない貨幣流通量で経済活動は活発になります)
 
そして「富」は、「お金」で持つよりも、
長持ちする「モノ」で持つようになります。
 
それは、使い捨ての商品よりも、
            100年もつ建物や森を育てることの方が得をする社会です。
 
 
                          (以上「かみつけの国 本のテーマ館」より)
 
 
 
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河邑厚徳+グループ現代
エンデの遺言 根源からお金を問うこと』
講談社+α文庫 定価 本体838円+税
 
 
シュヴァーネンキルヘンの奇跡
 
 シュヴァーネンキルヘンはドイツの南西部、 バイエルンの森にある石炭鉱山の町で、 人口は500人たらずでした。 しかし大恐慌の影響はこの小さな町が依存していた石炭鉱山を閉山 に追い込んでいました。1929年以来、 どの鉱山会社も操業は停止状態にあったのです。 鉱山で働く労働者は失業状態におかれていましたし、 彼らを相手の町の商店も売上げが期待できない状態でした。

 この町にも、 ドイツやスイスに広がった自由経済運動の考えが波及していました 。ゲゼル理論を実践してみようというグループがいたのです。 彼らはニーキッシュなどから知識を得ていました。 そのなかに小鉱山の所有者、ヘベッカーがいました。 1931年に、 恐慌でつぶれた鉱山を4万ライヒスマルクで借り入れた彼は、 これを担保にして自由貨幣の発行を企てます。 ゲゼル理論の支持者らは、発行団体を組織し、 実際はその鉱山の石炭を担保にした自由貨幣を発行します。
(注) ここで考えられた自由貨幣は、時とともに価値が下がっていく減価率を反映する比率を、お金の持ち越し費用としてスタンプを貼る方式が使われました。

この貨幣は「ヴェーラ」と呼ばれました。炭坑の経営者は、 労働者たちに、「竪坑をつくりたいが、お金はまったくない。 でもヴェーラがある」と説明し、彼らはそれを信用したわけです。
こうして鉱山は再開し、 仕事がない労働者は喜んで働きはじめました。 労働者の給料のうち、3分の2がヴェーラで、 3分の1がライヒスマルクで支払われました。

しかし、町の商店はそれを受け入れません。 そこで経営者は従業員用の店を設け、 日常生活の必要品を仕入れヴェーラで売ることにしました。 それで事情は一変しました。数ある商店の客が殺到したのです。 こうしてヴェーラは流通しはじめました。

ゲゼルの支持者たちは、 ヴェーラを知らない客がいる前でヴェーラを使って買い物をして見 せます。客はヴェーラに関心を示します。 少しするとヴェーラの発行団体に、 ヴェーラに冷淡だった商店の人間たちが大挙して押しかけk、 われわれにもヴェーラを扱わせてくれ、どうしたらいいんだ、 といってきました。そうして奇跡が起きたのです。

ドイツ中のゲゼル理論に同情的だった数千の小売店もヴェーラを受 け入れます。多くの企業もヴェーラを受け入れ、 周辺の町も関心を示すようになりました。 不況で苦しむドイツでは当然話題になり、 ニュースが全国に流れました。 それがまたヴェーラの拡大に寄与しました。
 
                          (以上、本書185ページより引用 )
 
このヴェーラは、帝国銀行によって禁止されることになりましたが、この奇跡の経験は、その後の世界に大きな影響を与え続けることになりました。

 
そしてこの考えは「地域通貨」の運動となって世界に広まり、やがて日本各地でも実践されました。
しかし、具体的に地域の人びとを結びつける経済というものに広がりをもたせることは、決して簡単ではありません。
 
私の労働と、どこかの誰だれさんの具体的労働を結びつけるということは、まさに地域の起業活動そのものに他ならないからです。
この点を見落として、地域通貨がなにか簡単に今までの経済活動にとって代わられるようなものと考えても、うまくいかないのは当然です。
 
でも、このたびの東日本大震災で受けた被害とその復興を考えると、その莫大な復興予算の問題を考えても、まさにこうした地域通貨の考え方が今こそ活かされるときであるとも思えます。
  
本書は、3・11を契機に、これからどのような社会をつくっていかなければならないのかを考える上で、欠かすことのできない大事な1冊だと思います。
 
実際に、価値が下がっていくお金ではなくても、期限のあるお金として、日銀の発行するお金に有効期限をつけたお札を発行すれば、この災害復興の期間だけでも、長く持っていると損をするという印象を与えるだけで、地域経済が早く循環する構造をつくることができます。現実にそうした提案をしてくれている人も出ています。
 
また小さな街の単位での復興には、これまで各地で実践された様々な経験も大きな力となると思います。本書の続巻にあたる『エンデの警鐘』は、残念ながら現在入手できませんが、地域通貨についての本はたくさん出ています。
 
この『エンデの遺言』は、店の復興支援のコーナーに並べておいていますが、なんとかこれを機会により多くの人に読んでいただけたらと思います。