~ここから新しい世界に出会える~正林堂

渋川市の書店「正林堂」からお店の企画、本の紹介、地域の情報などを気ままに発信します。

その土地固有種の強さ

「木を植えた男」フェア、おかげさまで絶好調、
・・・・と言いたいところですが、
こうした分野の本がそうポンポン売れるようであれば本屋の苦労はない。

明日からこのタイトルのホームページ「かみつけの国 本のテーマ館」用の準備などをかねて
「取材」兼「撮影」兼「運動」兼「遊び」で山に2,3日こもってきます。

例年はいつもゴールデンウィーク明けに、年一度の連休を取り
山スキーに行ってくるのが決まりでしたが、
今年は雪が少ないこともあり、早い時期からそれは半ばあきらめていました。


木を植えるというテーマ、
内容をもう少し分解すると、わかりやすい大事な問題がたくさん見えてくるので、
ホームページに整理する前に、ここで少しいくつか取り上げてみたいと思います。

まずその第一が、日本一木を植えた男、宮脇昭の強調する
自然の潜在植生を知るということです。
自然には必ず、その土地固有の最もその環境に適した生物が生息しているものですが、
人間の様々なはたらきかけや外来種の侵入などの長い歴史の積み重ねによって
その本来の姿はほとんど見分けることができないほどにまでなってしまっています。

それを植物という自然の最も基層をなす領域で
宮脇昭が『日本植生誌』という画期的な調査でまとめあげました。
それは植物の植生をあきらかにするために当然のこととして
日本の気候、地形、地質まで含めた植生の集大成です。
といっても、長い歴史で人間によって歪められた自然のなかから
潜在自然植生を見分けること、探し出す作業は並大抵のことではありません。

私はかつて、このような作業を
万葉植物と万葉歌の関係で、
http://kamituke.hp.infoseek.co.jp/page056.html
知ることができないかなどと考えたこともありましたが、
とても甘い考えであることを知りました。

この難しい作業を宮脇昭は、戦後まだ日本が高度経済成長期に入る前
ドイツのチュクセン教授のもとで、徹底した現場主義を叩き込まれて
その手法を日本に持ち帰る。
そして1978年から全国を、学校の宿直室や校長の自宅などに泊まりながら歩き続けて、
『日本植生誌』はまとめ上げられました。
本書は全10巻、各巻5万から7万円もするもので
関東の巻だけでも買いたいと思っても、6万円からのお買い物で簡単ではない。
もっとも品切れの本、関東編ともなればなおさらのこと
古書でも滅多にお目にかかれることはないだろうと思います。

それでも地域を語るうえでは、
現状の植生分析データなどよりも、どうしても揃えておきたい本です。
残念ながら公共図書館でも意外とおかれていないようです。

この宮脇昭の潜在植生調査によって、はじめてその土地固有の植生、
環境の変化に強い植生の分布というものがあきらかになった。
この調査で、日本文化の原点ともいわれる照葉樹林帯は、
「残された鎮守の森、屋敷林、斜面林などを含めても、
照葉樹林は本来の森の領域、潜在自然植生域のわずか0.06%しか残っていない」
こともわかりました。

しかし、この潜在自然植生を把握できたことで、
環境の変化にも強いその土地の豊かな自然の原風景というものを
わたしたちははじめてイメージすることができるようになった。

自然ばかりか人間の体も、こころも、
本来の自然の姿などほとんど語ることもできないほどに文明の発達した現代で
「本来の健康な姿」を取り戻す大きな手がかりを与えてくれています。

林業や景観維持のやめの自然復元ではなく
地球生命の再生産の豊かな構造を取り戻すための
大事な手がかりとなる地図がここにあります。

「ホンモノの森」を作り出すための手がかりが。