~ここから新しい世界に出会える~正林堂

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あらためて『文明の衝突』、その核心部分

昨日、ある常連のお客さんから、電話で『文明の対立』とかいう本はあるかとの問い合わせがありました。
もしかして『文明の衝突』ではないですか?
と聞くと、よくはわからないが、つい最近死んだ人の本だという。

そのとき、わたしは『文明の衝突』の著者名がハチントンだったかハンチントンだったか、正確に言えませんでした。
おぼろな記憶のまま検索してみたら、
サミュエル・ハンティントン。
24日に亡くなったことをその時知りました。

数年前、うちのスタッフがこの『文明の衝突』にどこで興味を持ったのか、取り寄せて読んでいたのを思い出しました。
なんとなくブッシュのイラク攻撃の世界情勢を背景に出た問題意識であったような気がします。

日本について重点的に書いた『文明の衝突と21世紀の日本』集英社新書もありますが、全体の基調は、世界の文明がブロック化して対立することを説明していながら、かなりの論点はアメリカ・キリスト教文明対イスラーム文明におかれていたような気がします。

アメリカが中東に睨みをきかせる理由として、ユダヤイスラーム対立などの内紛調停を表面に掲げながらも、石油利権の確保が最大の理由であるともいわれますが、今では思想的にアメリカの対共産主義思想以上の対イスラーム思想への敵対意識というものが、相互に根深く存在することを忘れてはなりません。

それは、キリスト教徒とイスラーム教徒が敵視し合うということの他に、アメリカ金融資本主義とイスラーム経済の敵対関係ともいうべきものです。

イスラーム文明では、「利子の禁止」が経済原則となっています。
実態は完全に利子を取らないということだけではなく、高額の利子は取らないという例などイスラーム社会内部でもいろいろで、論争があったりもしているようですが、社会金融システムとしては、様々な試行錯誤の上にまだ途上にあるともいえます。それでもこれはイスラム原理主義とまでいかなくても、利子生み資本を軸としたアメリカ金融資本主義とは、根本から対立する考え方です。

この考え方の背景には、
人間は、西欧の経済学が前提としているようなつねに合理的な判断をする「強い存在」ではなく、自己利益を優先させて、場合によっては相手を騙そうとする「弱い存在」であるという人間観があります。

そのうえで、個人間の約束を契約によって一定の枠にはめ、市場を持続的に成立させるようなさまざまなスキームを導入する。

まるで、今回のアメリカ発の金融危機は、イスラーム経済思想に負けたかのようですね。

もちろん、利子を取らずに、どうやって経済活動が成り立つんだという疑問はあるでしょうが、
利子と利潤を分けて考えるならば、そう難しいことでもありません。

最近のビジネス・ニュースでエコノミストが、
ゼロ金利の時代が長く続いたが、これからは、マイナス金利も考えられる時代になったとのコメントを出していました。
これは、ゼロ金利社会からの更なる後退を意味するものではなく、地域通貨の試みなどで普及し始めている、時間とともに老化するお金のことです。

それは長く持っていると損をするお金なので、少ない流通量で経済が活性化するしくみです。


このような、今までマイナーな試み、思想ととらえられていたことが、今回の金融危機のおかげで一挙に表の世界に出てくるようになりました。

たしかに今の世界経済は、とても厳しい状況にあります。
そのなかで苦しんでいる人は、今後さらに増えることでしょう。

しかし、これまでの暴走し続ける資本主義は、誰もがおかしい、なんとかしなければいけないと考えていたのが、やっと止まってくれたのです。
いくら説教しても決して変えることができなかった経済が、ようやくブレーキをかけてくれたのです。

それこそ、この姿は私たちが待ち望んでいたものではないでしょうか。
文明の衝突』後の社会、
それはもう私たちの手に委ねられているのです。

それみろ、やっぱりイスラーム思想の方が正しいんだということではなく、それは資本主義内部でも多くの人が気づき、様々な試みは既に始められていたものです。

来年は、自信をもってこうしたテーマを取り上げていきたいと思います。