~ここから新しい世界に出会える~正林堂

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『日本語が亡びるとき』

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このところ書評が、いたる所に出まくっている本です。

水村美苗
日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で』
筑摩書房 定価 本体1,800円+税

インターネットやグローバル経済のもとで、英語が標準語としての地位をますます高めるなかで、
日本語、国語の復権を求める論調の本は、本書に限らずたくさんあります。

しかし、本書ほど、読む者にその論点が重くのしかかってくる本はないようです。
紅野謙介氏はそれを
「鉛をのむような息苦しさがこの本にはある」
と評していました。

海外での体験をもつ著者の実感的文章は、小説家としての思考力そのものを、まさに日本語の力を駆使してわたしたちに深く見せつけてくれるものです。

日本語力や文章力、国語表現力などを私に語る資格はとてもないのですが、文法的表現力の技術差だけでなく、日本語で思索し、日本語で読み書きする繊細にして「高感度」な担い手の消滅の現実を鋭くつきつけるものです。

それは、日本の近代文学こそが「読まれるべき言葉」であるという指針を提出しているのですが、ただたくさん本を読む、文章を書くだけでは決して身につけえない現代の言語環境があるのです。

現代小説家の本は、確かにストーリーの組み立てや、現実の取材力などにおいて注目される作品はあっても、その文章は、確かに小説を読む満足感に欠ける作品ばかりと感じてしまうのは、おそらく私だけではないと思います。

言葉を組み立てなおすことと、生活を組み立てなおすことは、ほぼ同じことではないかと思えますが、そうしたことをじっくり考えさせてくれる本です。