~ここから新しい世界に出会える~正林堂

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剱岳 点の記 観てきました

お客さんから、感動の声を聞いてしまったので、早速、観てきました。
これはまだ観ていない方には是非、観ておいた方が良いおすすめ作品です。

と思いつつも、個々の場面を冷静に振り返ると
映像・カメラは85点
演技・演出をひっくるめて85点
脚本は、50点かな
音楽は、外してはいないのだけど、あまりにベタな選曲なので40点

うーーん、すばらしい作品、力作であることに間違いはないのだけれども、
歴史に残る名作としての力があるかというと、点数はやはり厳しくなってしまう。

一番の売りは、立山連峰雄大な山などの自然の厳しさ、そのスケールを映したカメラなのだけれど、
手抜きの感じられないしっかりとした撮影でありながら、
数々のこれまでの山岳映画や自然映像と比較した眼で見ると、
いまひとつそのスケール観が出しきれていないように見えてしまいました。

そもそも、大自然雄大なスケールを、カメラの枠のなかに閉じ込めて表現するというのは、
とても難しいものだと思います。
それだけに、映画のなかで使われる自然撮影のワンショットには、どれも大変な労力がかかっているものです。

この作品の場合、作品の大半が山の現場で撮影されているだけに、瞬間で見せる大自然のパノラマだけでなく
自然の厳しさ、雄大さ、美しさなどを長時間にわたって見せ続けなければならない。
それだけに、素材そのものの迫力を写し撮るだけでなく、
そのそれぞれの変化をドラマのなかで際立たせなければならない難しさがあるのだと思うのです。

残念ながら、そこが脚本、テーマの構成の仕方などで練りきれていない感じがしました。

作品のなかには、いくつもの大事な軸になるストーリーが紡がれています。

体面にこだわる陸軍上層部と現場との葛藤。
過去に剱岳の登頂を試みながら断念した役所広司演じる先輩との対話。
立山信仰を守るために登頂に反対する地元民との協力関係
反対する側にたつ案内人の息子との関係
絶対的な信頼をおかれている案内人、長次郎の立場
初登頂を競う日本山岳会との関係
登頂そのものを目的とした者の隣りで、測量作業の一環として登頂を目指すグループ内部の葛藤
・・・などなど

これらが、どれも実力のある俳優たちによってしっかり撮影されているのですが、
ひとつの作品に仕上げるためのここのエピソードの組み立てや練り方が、
原作の筋を追いかけることにどうしても囚われるためか、ビシッとつながらないのが惜しい気がしました。

役所広司の出し方も、もっと少ないカットで十分その存在感は出すことが出来ただろうに、とか。
案内人に抵抗しつづけた息子が、父宛の手紙をおくり、案内人が登頂への覚悟を決めるシーンとか、
結末からすれば、謎の行者についても、もっと大事に描いてほしいところです。

しかし、監督が手を抜いていないことだけは、よくわかるので厳しい点とつけるのは申しわけないのだけれど、
脚本の練り方は、やはり50点くらいに感じました。

でも、絶対観ておいた方がよい作品であることには間違いありません。