~ここから新しい世界に出会える~正林堂

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岩波文庫 私の三冊

岩波書店の月刊広報誌「図書」の臨時増刊号で
岩波文庫創刊80周年記念号として、各界の著名人(研究者だけでなく、芸能人からミュージシャンまで)に今なお心に残る岩波文庫三冊を選んでもらうアンケートを送り、232通の回答がよせられたものが掲載されている。

なかなか興味深い内容だった。
思いのほか多く選ばれていたのが『きけわだつみのこえ』
最近は本書の編集方法への批判が高まっているが、やはり時代への影響は大きかった。

夏目漱石ドストエフスキーなどの人気は当然のこととして理解できるが、
永井荷風の『摘録断腸亭日乗』を多くのひとが取り上げているのがうれしい。

群馬の人間としてみると、
朔太郎、牧水『みなかみ紀行』、『塩原太助一代記』などは当然としつつも
田中正造の成しえたことは大きいが、それ以上に
内村鑑三の『後世への最大遺物・デンマルク国の話』『代表的日本人』『余は如何にして~』などの文章の方が訴える力はやはりすごかったのがうかがえる。

吉野源三郎の『君たちはどう生きるか
ウェーバープロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神
福沢諭吉の『学問のすすめ』『文明論之概略』『福翁自伝
宮本常一『忘れられた日本人』
横山源之助『日本の下層社会』
あたりは絶対的人気があるが、確かに読んでおきたい本。


で、私なら三冊なにを選ぶか?

キリスト教に思い入れはなくてもやはり内村鑑三の本は強く心に残っている。
1冊あげるなら『代表的日本人』か。
小説ならば、泉鏡花中島敦といきそうだが、岩波文庫の思い出としては
野上弥生子の『迷路』。
社会科学、哲学系では、カントの『永遠の平和のために』やウェーバープロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』、ニーチェの諸作品が印象深いが、1冊に絞るとしたら
戸坂潤の『日本イデオロギー論』。

やはり、若いときに読んだ本のほうが
新鮮な感動を深く残しているようだ。