~ここから新しい世界に出会える~正林堂

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政治家、吉田茂の自問

先日、呼吸器科の医者に行って待合室にいる間、
小倉和夫著『吉田茂の自問 敗戦、そして報告書「日本外交の過誤」』
藤原書店 2003年 税込価格2,520円
という本を読んでいた。

これはちゃんと知っていて買った本ではなく、
かねて吉田茂には、特別の興味をもっていたので、
この著者の名は知らないが藤原書店が出したということならいい本に違いないと
古書で見つけたのをその場で購入したもの。

どちらかというと私は政治ネタはあまり好きではない。
でも、こと吉田茂田中角栄に関してだけは、
政治史ばかりでなく、戦後史を語るうえでしっかりとおさえておかなければいけないと思ってる。

とりわけ、吉田茂は、決して歴史に残る偉人といえるようなタイプではないが、
敗戦、占領下の日本が、アメリカとの関係を
独立国への歩みとしてこれからどう築いていくか、
ひとりの政治家としては、見事な舵取りをした面があると思っている。

こんな見方は、自分自身、日常は反自民、反安保も口にしていながら
かつては想像できない見方かもしれないが、
歴代首相のなかでは、最も政治家としての仕事を為した人物であると評価している。

それは、決して良いことをしてくれたと思っているわけではない。
敗戦、占領という状況のもとで、
政権を握る与党の立場、
前にも書いた「そうすることしか出来ない現実」のなかで
最大限の努力をしていた姿がみてとれるからです。
安保闘争の最中は保守反動の象徴のような存在でしたが。

これほど自分の責任で歴史上の決断を下した政治家は、その後はいない。
小泉元首相など、歴史的な流れで見れば、特別なことはほとんどしてない。

そうした吉田茂の政治姿勢、政治判断の背景を
本書はうまく伝えてくれている。
吉田茂については、他にすぐれた研究書はたくさん出ていますが、
この本は、吉田茂が外交上の政治判断をするために、
当時の若い官僚を抜擢して、日中戦争から敗戦に至るまでの
日本の政治史の総括を、
はたして、その時々の政治家たちは、
ほんとうにそうすることしか出来なかったのか、
といった視点でまとめさせたもので、
今から見れば、資料不足や当時の事情などから分析の甘くみえる部分も多々ありますが
雑な部分も見えるだけに、当時の若手官僚が必死になってまとめた姿もリアルにみえて面白い。

こうした、その時々の事情を十分ふまえたうえで、
「ほんとうにそうすることができなかったのだろうか」といった総括をすることは
とても大事なのに、戦後の政治史のなかではこれをほとんどしてこなかった。
これでまともな外交判断など出来るわけがない。

この視点、安保を闘った「食い逃げ世代」と言われる
団塊の世代の皆さんにこそ、
いまこそ向き合ってほしいものだ。


通常、商売しているものは
政治と宗教には立ち入らないのが常識ですが、
ここに踏み込んでこそ、本屋は面白いんだ!
身の破滅の快感ってのかな。