~ここから新しい世界に出会える~正林堂

渋川市の書店「正林堂」からお店の企画、本の紹介、地域の情報などを気ままに発信します。

やっぱり払われていない価値

前回の「情報の値段はタダ(無料)」の話、
長い内容だったこともあり、投げ銭システムのほうに話題が集中してしまいましたが、情報の価値に関してはやはりコストは払われていないことを確認する補足の話を加えます。

以前、木を植えた男のフェアの紹介で宮脇昭の「日本植生誌」というとても高額な重要な本のことに少し触れましたが、この関東編だけでもなんとか古書で手にいれたいとずっと思っていました。
定価で6万いくらかの本、古書で運良く出会えれば3万円代で入手できないかと時々検索かけてましたが、全国のなかでもとりわけ人気が高く需要も多い関東編、そう簡単には出てきそうにない。四国、九州編だけは時々出てくるのだが・・・

検索で県立図書館には在庫があることがわかったので、早速現品を訪ねて見てみると、中身は専門的な研究データばかりで、これを読み解く気力は自分にはとても持てそうにないことがわかった。
私には、付録の植生分析地図のみあれば十分。
しばらくその地図を閲覧室でそのまま眺めていた。

その時、ふと気がつくと後ろでコピーの音。
エッ!もしかして、これもコピーしていいのか!?
もちろん!!

樹種別に色分けした図面なのでカラーコピーをすることにして
カウンターに申請用紙を出した。
聞くと、白黒はセルフだが、カラーコピーはカウンターにいる司書の女性がしてくれることになっている。
大きな図面なので、その司書の方とA3サイズでどう継ぎ合わせるかいろいろ相談してお願いをする。
その女性、ちょっと版画家の山本容子を地味にした感じの素敵な人だった。
継ぎはぎ部分や端のおさまり、A3ではぎりぎりのとり方になるので、奥のほうでは、必要枚数よりずいぶん多くコピー機が動いている音がした。たぶん位置あわせに苦労しているのだろうと思われる。カラーともなれば原価も馬鹿にならないだろうに。

結局お願いした部分はA3版5枚でおさまった。
80円×5枚 400円也!

当初、3万円から下手すれば6,7万円の出費も覚悟していたものが400円で済んじゃった。

この感動、どう表現したらいいんだろう。
苦労してコピーをとってくれた司書の山本容子似の女性の首を
カウンター越しに引き寄せ頬擦りでもしてあげたい。
そんなこともちろんできないので、
「念願の資料が手に入って、とても嬉しいです。」
とだけ礼を述べた。
静かな空間なので、私は小声でそれを伝えただけ。
相手もちょっと驚いたような表情でニコッと笑顔を返してくれた。実にいい人だった。

これが図書館の基本サービスで、向こうも業務としてやっていることに過ぎないのだが、このとき、情報の価値、コストというものについて改めてなんなんだろうという気持ちがわいてきた。

図書館サービスなど、もともとすべての情報を公共財として、あらゆるものを差別することなく提供するのがその任務で、そこで得る情報に対してはコピーサービスの代金以外、ほとんどの情報は著作権どうのこうのなどと文句を言われることもなく入手することができる。(その前に現実には税金でその人件費、図書購入費、施設維持費などは負担しているが)

それに対して、通常の市場に出回っている情報は、その市場流通コストとして、印刷、製本、物流の費用を利用者は負担し、更に古書であれば、その希少価値などが上乗せされる。

しかし、これらの費用負担は、そのどこを取っても、
情報にアクセスするためのサービス料のみの負担で、
情報そのものの価値には一切関知していない。

これは現状ではあたりまえのこととして通っていますが、
私としては、先の司書の女性にお礼を言うこと以外、
こちらがどんなに感動していても、
抱きつくことも、頬ずりすることもできないのが
どうも納得できない。

400円でもらった資料が、どんなに価値あるものか
どっかで表現する必要はないのか?

情報化社会の到来、知識産業の隆盛など騒がれていながら、
名簿ビジネスなどの領域以外は、
まだこれらの価値に対する対価が問題にされていない現実。
なにも余計な費用負担が増える話を無理にしなくていいのかもしれないが、ハードのなかに隠れていたソフトのほんとうの実体を問題にすべき時代が、これからきっとやってくるのではないかと思っている。

またいつか続きの話をする機会もあるかと思いますが、
ほんとうの価値とは、客観的なものではなく
主観的なもの、個人的なものであるということが理解され、
人間関係や経済活動に反映される時代が
いま始まりつつあるのだと勝手に私は今考えてます。