~ここから新しい世界に出会える~正林堂

渋川市の書店「正林堂」からお店の企画、本の紹介、地域の情報などを気ままに発信します。

どう語る?「尾瀬」

 このたび尾瀬日光国立公園から独立しました。

地元ではさらに世界遺産登録を望む声も高いようです。
 しかし、先の三人委員会哲学塾の内山節さんなども、世界遺産登録がこれまで真の歴史遺産保護のために成功している例はあまり見られないと言っており、わたしも、そもそも目指す方向が違うのではないかとずっと感じています。

 先日のそのフォーラムの場でも、せっかく片品という地で開かれたのだから、もっと尾瀬について語ろうとの提起もされました。
 しかし、いざ蓋を開けてみると、観光のために自然保護といかに折り合いをつけるかといった話や、ある老人からは尾瀬については、すでにもう研究されつくされている、語りつくされている、といった意見が出たかと思えば、高校生から、地元なのに地元の人が尾瀬についてなにも知らない、などという意見が出たりもしています。

 それぞれの意見が、片品村や群馬という地元でよく耳にする意見です。
 この点では環境問題の専門家である鬼頭秀一さんの発言にとても期待したのですが、正直とてもがっかりさせられる発言で、そのあとに私はなんとか自分の意見をぶつけたかったのですが、せっかく手を上げて指名してもらいながら、近くで高校生が手を上げたのが見えてついそちらに譲ってしまい、とうとう発言の機会を逸してしまいました。


 わたしたちが、尾瀬の魅力を広く多くの人々に伝えようとするとき、それは、ミズバショウニッコウキスゲだけをより多くの人に見てもらえばよいようなものなのでしょうか。

 決してそんなことの機会だけを何万人のひとにより多く与えても、尾瀬の魅力を伝えることにはならないことは、地元の人の多くはわかると思うのですが、それでも、まず、ミズバショウや湿原の姿を多くの人に出発点として見てもらうことには意義があると、多くの人は言います。
 そのこと自体、決して間違っているとはいえない面はありますが、わたしはそれではいくら努力を重ねても正しい解決には至れないのではないかと思っています。

 前にどこかで書いたことの繰り返しなりますが、私は、自然保護を考えるときには、まず第一に、「持続可能な発展のため」とか「自然・環境にやさしい」といった表現にあらわれるような環境に対する人間の負荷をいかに抑えるか、といった発想ではいけないのではないかと思っています。
 もちろん、現在危機的な状況におかれている自然を守るために、そのようなことが急務であり必要なことであるということ自体はまったく異論はありません。しかし、この発想をしている限り、環境保全のためのコストがどうしてもかかるばかりで、現実には、保護を名乗っていながらエントロピー増大から逃れられない構造を感じてしまいます。
 そして、自然そのものが、人間によってはたしてどれだけコントロールできるのかといった問題にもぶつかり、エゴの対立を増すばかりのように思えてなりません。

 それに対するわたしたちの発想は、「保護」の発想よりも、まず第一に、自然そのものの生命の再生産の構造を取り戻すことを軸に考えなければならないとするものです。
 人間の管理による解決よりも、まず人間によって破壊され、歪められた自然の本来の環境を取り戻し、その自然生態系の生命の生産力そのもので自然環境が維持されることが基本であると考えます。

 この原則に則っている場合、自然の保護・維持活動は、一度その生態系がつくられれば、それは人間の活動によってではなく自然自身の活動で循環維持されるため、基本的にコストというものがはじめの本来の自然生態系を取り戻す作業を除けば、ほとんど発生しないものであることがわかります。

 以前に書いた「木を植える」という活動もそのような性格のものでなければなりません。

 そして今、私たちに必要なのは、そのような生命力にあふれた自然自身のエネルギーによる再生産の構造、生態系とはどのようなものであるかをしっかりと調査して知ることです。
 一部の草花の美しさや生物のたくましさを知ることだけではなく、大自然、地球生命体のバランスを、宇宙の神秘も含めて私たちが理解することは、決して、日帰りの尾瀬観光だけで理解できるようなものではありません。

 それを理解するには、専門家の英知を結集するばかりでなく、きちんとした自然の生態系を説明し伝える場が保証されていなければなりません。
 そのような場を、尾瀬に入山する際にずべての人が体験できるようにすることこそ、まず人数制限や入山区域制限などをはかる前にしなければならないことではないかと思います。

 尾瀬のことを知るには、尾瀬に入るには、
 最低30分(1時間)の環境レクチャーを受けてから入山することを義務付ける
  例:レクチャー料金を入山料とする
 日帰りよりも1週間程度の魅力ある長期学習ツアーが優先されるしくみをつくる。
 順次、尾瀬内部の山小屋は減らしてゆき、尾瀬周辺部により充実した環境学習設備を伴った宿泊施設を増やしていく。
 尾瀬国立公園内での宿泊は、完全自炊・ゴミ完全持ち帰りの能力を保証されたテント泊のみ許可の方向に切り替える。(自分ひとり分の環境処理を自分で行なえること)
 (具体論はいろいろな別な方法も考えられると思います。)

体力のある人以外は尾瀬に近づけなくすればよいなどという話もありましたが、体力のあるひとが環境破壊してしまうようではいけません。何よりも自分ひとり分の環境に対する始末が自力できちんとできることが大事です。そのためにも、山小屋などの設備に依存した自然体験よりも、炊事はもとより自分の排泄物の始末まですべて自分でできることが、環境を考えるうえでとても大事です。

 このようなことを考えるうえで、地元の尾瀬高校が行っている調査・学習活動はとても価値あることです。

 先にある老人の、尾瀬については十分研究もされつくしているし、語りつくされてもいるという発言を紹介しましたが、これだけ研究され語られているようでありながら、ほとんどそれはまだ『表現』されているとは言いがたい実情にあると思います。

 そんなことを説明するために、あらためて「尾瀬高校ってスゴイ!」という内容を書こうと思ってますが、既存のいかなる保護団体や研究者よりも、尾瀬高校は、これからの環境を考えていくうえの大事なスタンスを持っています。
 地元でも知られていない尾瀬高校の凄さ、今度、書きます。