~ここから新しい世界に出会える~正林堂

渋川市の書店「正林堂」からお店の企画、本の紹介、地域の情報などを気ままに発信します。

数字は客観的でない(ことが多い)

お店で棚の担当者との間で、同じ商品の見方の違いを感じることがよくあります。
ひとつの本が売れたその実績に対して、
ある担当は
「1冊売れた、嬉しい!」といい
別のある担当は
「1冊しか売れない」という。

総じて、積極的な変化を望む人は前者であり、
変化を好まない人は後者の発言をする。

またあるとき、売れる商品の追加注文をなぜもっと出さないのかわからず担当に聞くと
前年実績データとちゃんと同じに仕入れているという。
売り損じていた数をどうして加えないのか、と言っても
返品リスクを恐れてか、なかなか追加注文を出さない。

これに似た混乱が「客観的データ」といわれるもののなかには、しばしば登場する。

それは、数字を出す調査方法そのものの問題によるもの
数字の見方の問題によるものなど様々ですが、
最近、そんなことを感じることがとても多い。

環境問題、野生動物の保護などの問題でもよく起きている。

猛禽類オオタカのこんな例がある。

1984年の「日本野鳥の会」の推定では、生息数は全国で300~480羽だった。そのために絶滅危惧種に加えられたのだ。ところが、1988年には数千羽に訂正されている。栃木県だけで200~300羽見つかったからだ。その後全国で調査が進むにつれて、推定数は増え続け、今では「少なくとも1万羽以上」(環境省関係者)という声もある。そのため2006年に環境省は、オオタカ絶滅危惧種から外すことを決めた。

カモシカやシカ、ツキノワグマの生息数調査でも似たことがおきてる。

カモシカやシカの生息数の推定には、通常、区画法と呼ばれる方法が使われる。調査地区に調査員を配置して一斉に平行して歩き、目撃した時間と数、個体の姿形や逃げた方向などを記録するものだ。そして集計して重なると思われる個体は省きながら、誤差も見込んで生息数を算出する。統計手法が駆使されており、もっとも正確に野生動物の数を推定する方法だとされた。
 ところが近年は、ヘリコプターによるカウント法が登場した。冬の落葉樹林ならば、空から森の中にいる動物が観察できる。それをカウントしていくのだ。広範囲に俯瞰するから制精度は高い。群馬県草津周辺の山で、この方法でカモシカの頭数調査を行うと驚くべき結果が出た。区画推定法の推定値と比べると、約二倍も多かったのである。

               田中淳夫『森林からのニッポン再生』より

 こんな例をいろいろ見ていると、
よく言われる山村地の過疎問題や中心市街地の空洞化問題も、ちょっと待てよという気になってくる。
 現在の多くの山村や、中心市街地の人口が減少していることは事実であるが、いつと比較して減少していると考えるかといえば、1960年から1970年代以降の話である。それ以前の戦後の歴史は山村も中心市街地も人口激増の時代であったといえる。
 では、戦前や明治期と現代を比較してみたら、衰退したといわれる今の人口よりも、どちらも遥かにまだ少ない場合の方が多いことがわかる。
 そう考えると、人口が減ったから食べていけないのではなく、必要な基礎数はあるのだから、地域内で循環する経済構造さえ取り戻せれば、食っていくに十分な市場はあるはずだと考えることはできないだろうか。

 どれもみな、最初に書いた
「1冊しか売れない」と嘆くか、
「1冊売れた、嬉しい」と喜ぶかの差にあるといえないだろうか。